「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」 と心理学者のアドラーが考えたように、ほぼ全ての人が人間関係で悩んだ経験があるのではないでしょうか。
「人から嫌われたくない」「飲み会のような場を避けたい」「面白いことを言わないといけない」。そんな悩みを一度でも感じたことのある方にオススメなのが「笑いの力」を利用すること。
元お笑い芸人である中北朋宏氏は、芸人引退後に未経験でコンサル業界に転職し、「笑いの技術」を駆使して3年でナンバーワンに。その後、起業して株式会社俺を設立。現在は芸人のセカンドキャリア・転職を支援する『芸人ネクスト』と、「お笑い」と「コミュニケーション」を掛け合わせた、心理的安全性や営業力を向上させる独自のノウハウ「コメディケーション」を260社、2万6000人以上に提供しています。
最新刊『おもしろい人が無意識にしている 神雑談力』では、中北氏のこれまでの経験から培った「笑いをビジネスに活かす技術」を網羅。
以下では、今日からすぐに使える「人生を変える神雑談力」について解説します。
■普通の雑談は時間のムダである
職業柄、年間3000名ほどの方とお会いしますが、企業で働く人の多くは、人間関係で悩んでいます。業界業種に関係なく、または経営者から新入社員まで役職に関係なく、必ず一つは人間関係の悩みに頭を抱えているのではないでしょうか。
例えば、管理職であれば昨今、心理的安全性という言葉が間違った解釈で広がり、部下に対して「叱る」ということができず、腫れ物に触るかのような接し方しかできなくなっています。新入社員であれば「配属された部署でうまくやっていけるのか」「上司や先輩と合わない」など、一度はあなたも感じたことがあるような悩みを抱えています。
このような人間関係の悩みを抱えた人が、やみくもにコミュニケーション関連の書籍を読んだり、人と接する機会を増やしたところで、一向に悩みは解決できません。
ただただ、表面的な会話に時間を費やし、自分の人生にとって必要のない人たちと関わる機会が増えるだけです。
例えば、あなたはこんな言葉で雑談を始めていませんか?
今日は暑いですね! 毎日、毎日嫌になってしまいます!
これは、間を埋めるだけの表面的な雑談です。共感を誘う狙いがあるのかもしれませんが、その日やその場が暑いのは、多くの人にとって当たり前のことです。特別な共感を生み出すこともありませんし、ここから会話を弾ませるのも難しいです。
それでは、相手から信頼を得て会話を弾ませていくための工夫として、このような言葉を入れたらどうでしょう。
今日は暑いですね。午前中にお伺いした御社と同じ業界のお客様では……(続ける)
普通の雑談にも聞こえますが、相手の無意識に「この営業さんは、他の会社にも引っ張りダコなのかも」と間接的にすり込めます。
また相手と同じ業界の動向を伝えられれば、「この営業さんは色んな情報を持っていそう」「この営業さんからは学べそう」といったように信頼獲得につなげることもできます。
■言葉を少し変えるだけで、神雑談になる
一流の人や話が面白い人は、このような「相手にどうなってほしいか」という意図を持った雑談を無意識のうちにしています。
私は意図を持ち、相手から「あなたと仕事がしたい」と無意識に思われる雑談のことを「神雑談」と呼んでいます。
他にも営業シーンに限らず、職場でのコミュニケーションなども含めた日常の中でどのような「神雑談」があるかというと……、
自己紹介で「ターゲットを絞る」
趣味は映画です。
↓
趣味は映画です。『パッチ・アダムス』が好きです。
特に〇〇のシーンで目頭が熱くなりました。
趣味が映画の人は数多く存在しているため、自己紹介の目的である「自分を相手の印象に残す」ことは難しいのが正直なところです。
そのため、具体的な「作品名」や「感情が動いたシーン」を入れ、趣味嗜好が近しい人にターゲットを絞ります。
すると、近しい趣味嗜好の相手からは、強烈な共感を生み、印象に残りやすくなります。
または、完全一致の場合には印象に残るどころか、「映画の話で一杯どう?」と相手から誘われることもあるかもしれません。
■本音を伝え、相手からも引き出す会話
大きな声でストレートに伝えるのではなく「心に刺さる伝え方」をする
この前の話、結構、感動しました。
↓
(聞こえるか聞こえないかの声でしみじみと)
この前の話、本当に感動したんだよな……。
ストレートに伝えることで心に刺さることもあるかもしれません。ただ、人によっては「嘘くささ」が出てしまう方もいるのではないでしょうか。
非常に残念ではありますが、私も「嘘くささ」が出てしまう一人です。そんな時に、相手に理由を伝える際に、意図しないタイミングで心から声が漏れ出したように演出すると、人は信用しやすくなります。
相手が「本音を気持ちよく話す」相槌をする
さすがです・なるほど・そうなんですね~
↓
すごい・面白い・変わってますね!
人は欲求段階によって刺さる相槌が変わります。欲求段階の参考として、マズローの欲求5段階説というものをもとに紹介すると、「社会的欲求」を満たしたい方は「すごい」という相槌で気分が乗ります。
「尊厳欲求」を満たしたい方は、オリジナリティを求めている傾向があるため「面白い」と言われることで話しやすく感じやすいです。
「自己実現欲求」を満たした方は、全てを手に入れており、褒められることに飽きているため「変わってますね!」と忖度なくストレートに伝えてくれる人のほうが気分良く話す傾向があります。
管理職として「落ち込む部下」を元気づける
君また失敗したのか?
↓
失敗の切り口が斬新でいいね!
ポジティブ比とネガティブ比という理論から、ポジティブな言葉が多い職場のほうがパフォーマンスが高いと言われています。
具体的には、数字の向上だけでなく、離職率にまで影響を及ぼすと言われています。また、ネガティブな言葉で責めると対象の部下のパフォーマンスが落ちるだけでなく、周囲にまで影響を及ぼし、全体として成果が目減りしてしまいます。
そこで、ポジティブな言葉でイジることで笑いに変わり、心理的安全性が上昇しチームの成果向上へとつながります。
どれもシンプルで大したことがないように思えるかもしれませんが、その効果は絶大です。
具体的に私が、この「神雑談力」を身につけて何を得たのかというと……、
①営業の契約率が2.5倍になった
②未経験から人事系コンサルに入社後3年で営業ナンバーワンになった
③中北軍団をつくり、当時の自社の若手離職率を80%から0%にした
④社会人歴6年で独立し、数名の社員を雇用する経営者となった
⑤メディアへの出演や取材の依頼が来るようになり書籍を3冊出版
⑥売れていないお笑い芸人時代から年収が104倍になった
⑦大切な人と時間を共にするようになり幸福感が高まった
人間関係だけではなく、仕事での成果や年収が増え、さらには協力してくれる人ができ、人生そのものが変わるほどの効果がありました。
「普通の雑談」が、「当たり障りないお喋り」だとするのであれば、「神雑談力」とは、「あなたと仕事がしたいと思わせる力」です。
■関係構築の3つの段階を理解しよう
「あなたと仕事がしたい」と思わせるまでには、表面的な関係をつくるだけでは到達できません。
関係構築は、分解すると3つのフェーズに分けることができます。その全てを獲得することで得られる効果が「あなたと仕事がしたいと思わせる」ということになるわけです。また、「神雑談力」とは、目の前の相手との関係を築き、さらに深める力とも言えるわけです。
では、このような「神雑談力」を身につけるためにはどうしたら良いのか。
まずは先ほどお伝えした通り、関係構築には3つのフェーズがあることを理解する必要があります。
その3つのフェーズには異なる目的とスキルが存在しています。
具体的にどのようなものかというと……、
①関係開始:この人は良い印象だ
②関係継続:この人をもっと知りたい
③関係深耕:この人の力になりたい
①~③のフェーズを分かりやすくするために、「相手がどう思うと良いのか」という相手主語の観点で目的を記載しています。
このように相手主語で見える化すると、「確かにフェーズごとに必要なスキルは違うぞ」とご理解いただけるのではないでしょうか。
当然ですが、あなたが上司だとして「①関係開始:この人は良い印象だ」を部下から獲得していないにもかかわらず、あなたがどれだけ「自己開示」をしても、部下からすれば「少し気持ち悪い……」となりかねないわけです。
■認識するだけでも雑談は変わる
そのほか、お客様でよく耳にする事例としては、若手社員の方が「③関係深耕:この人の力になりたい」を周囲から獲得できていないにもかかわらず、「やりたいこと」を主張しても協力してもらえるはずがありません。
この3つのフェーズを意識し、今までのあなたと相手の「関係構築はどのフェーズなのか」を考える、あなたが持っている「コミュニケーションスキルを分類し整理する」だけでも、あなたのコミュニケーションの質は格段に上がります。
さて、今回の記事では、あなたが現状している雑談は、「普通の雑談」なのか、それとも無意識に「神雑談力」を活用しているのかを認識していただければと思います。
そして、関係構築には3つのフェーズがあり、それぞれ「目的」と「求められるスキル」があることを理解していただければと思います。
予告として、次回の記事より「神雑談力」の具体的なスキルの部分でもある「本当に必要な人間関係の作り方から深め方、そして必要のない人間関係の断捨離の仕方」まで、順を追ってお伝えできればと思います。
次回もお楽しみに!
東洋経済オンライン
最終更新:9/20(水) 16:41
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